先般「メディアの興亡」を読んで、日本の新聞事業の近現代に関して少し知識を得た私でしたが、では一方この時期にメディアの事業的な側面を構成する広告事業はどう作られてきたのだろうか?ということが疑問として残りました。そこで、世界で一番大きな広告会社を作られてきた方々のお話は非常に参考になるだろうと考えて、最近読んだのが「この人 吉田秀雄」でした。吉田秀雄氏は広告系の事業に関わる方ならまずご存知ない方はいないのではないかと思いますが、株式会社電通の事業を2次大戦の前後で大きく拡大された同社の第4代社長です。「電通鬼十則」という、広告事業に臨む人の覚悟をまとめた方としてもとても有名なのではないかと思います。
この本は吉田秀雄氏の伝記とも言える本で、その人物史なのですが、ご本人の生前の言葉だけではなく、むしろ当時吉田氏の周辺にいらっしゃった様々な方の証言からご本人のイメージを浮かび上がらせるような内容になっているので、非常に評伝として読みやすいものになっています。さらに吉田氏を中心として、日本の広告事業の歴史と、株式会社電通の歴史にも触れており、日本の広告事業の近現代史を俯瞰する上でも良書なのではないかと思います。
さて、事業的なニーズから読んだ本書ですが、とにかく参考になる点は多かったと思います。戦前には混沌としていて、しかも価格や内容があやふやだった広告事業について疑問を持ち、様々な局面で整理を行い、立派な産業として成長させてこられたこと(特に、戦中の新聞社の統合期に、広告価格の標準化というか、整理をやられた点は広告事業にも非常に大きな意義があったのではないかと思います)、また商業ラジオ、テレビ放送の可能性を早期に見出し、ラジオ・テレビ産業の立ち上げに様々な形で尽力された点など、日本の広告事業の近現代史を紐解く上で重要なポイントに触れています。また同社が果敢に新しいメディアに取り組み、また広告をわかりやすい商品とするための活動を進める中で、いかに現在の地位を確立されて来たのかがわかるようになっています。
ただ、個人的に感銘を受けたのは、むしろその広告事業に関する部分ではなく、会社運営に関するスタンスでした。吉田氏は戦後、市場がまだ極度に不安定な時期に、相当雇用に積極的だった、というような記述が本書にありましたが、特にその部分に感じるところがあったのです。
最初に大企業で働いて、次に自分で小さな会社を起業して、現在ではまだ成長過程にある、外資のそれなりの規模のベンチャー企業の日本法人で経営者の立場にいる訳ですが、その中で「雇用創出」の重要性をひしひしと感じることがあります。ケイザイを勉強されている方にはあたりまえのことだと思うのですが、「雇用の創出」は、即ち一方で「消費」の拡大に繋がる訳で、より活発にお金が循環する仕組みを強化してくれる訳です。当然雇用が減れば逆のスパイラルが起こることになります。結果的に、雇用を創出している会社は、経済に対して何らかの貢献をしていることになりますし、社会的にも存在意義があるというものです。
でも、この数年で企業の評価はあまりにも「利益」というところにフォーカスが集まりすぎているのではないかと思うわけです。もちろん会社が新しい事業に乗り出すためには、この「利益」が重要な訳ですが、利益を出してばかりで、一方で雇用を生まない事業というのは、あまり経済には貢献していないのではないかと思うのです(利益を投資にまわすことで、それなりに市場に対しての貢献は出来ますが)。CSRが近年注目されているのは、こうした傾向が進み過ぎていることから、改めて企業の社会的存在価値を見直そう、という動きなのではないかと(とまあメディアなんかでも言われていますが)。
そういった観点からすると、事業家に必要なスキルは、もちろん利益の出る事業を作っていく、ということでもあるんですが、同時に雇用の創出できる事業を作っていく、ということも非常に大事だと思うのです。「そんな呑気な」とか、「まず利益の出る事業を作るのが当然先だろう?」言われそうですが、個人的には利益を出すと同時に、それでも雇用をしっかりと創出できるような事業を作っていきたいと思う今日この頃です。