ライブドア騒動に関するコメント
ここ数日何かこの件については書かなければ、と思っていたんですが、どのように自身のスタンスを書くか悩んでいるうちに、事態の方がどんどん進んでしまって、本日ライブドア社長の堀江氏逮捕、ということになっています。
容疑が事実有罪のものとしてまだ確定したわけではありませんが、96年から社会人として、ネット事業の成長を自身で体感してきたし、見守ってきた身として、何かちゃんと書く必要があるだろうと思い、とりあえずエントリーしてみている次第です。
逮捕の報を聞いてまず真っ先に思い出したのは、あんまり今回報道には出てきませんが、リキッドオーディオ事件でした。ネットバブルの崩壊は主にアメリカの影響もありましたが、このリキッドオーディオ事件も個人的にはきっかけの1つだったような気がしていました。犯罪はどこまでいっても正当化されるものではありません。
当時とは異なり、Web系のサービスに対する実需は明らかに拡大していますが(例えば、電通さんの日本の広告費を見るとわかりますが、ここ1~2年のネット広告の伸びはかなりのものです。あと電通総研さんの今後の予測も出ています。)、今回の事件によって、ネット系のサービス全体に対する不信のようなものが広がることだけはあってほしくないと思っています(もう遅いかもですが)。信用の回復には、業界全体としてより地に足のついた事業の発展を志して頑張るしかないと思っています。
もう1つ懸念しているのが、M&Aなどの手法に対する批判が強まることです。全うな事業戦略に基づいて、正しく行われるM&Aなどの手法は買う方の企業にも、買われる方の企業にもメリットがあります。
私もかつて自身の会社を売却したことがありましたが、これによって買う側の企業は1から事業を始めるよりも早く仕事を進めることが出来たことで、機会損失を免れたり、あるいは人材採用のコスト等を抑えることが出来た部分があったでしょうし、買われた私の立場としても、独自で事業を進めていくには不安定だった自身の事業を、ブランドやノウハウ、コンテンツ面等で支援してもらい、新しい事業のフェーズに入ることが出来たわけです。
今まで以上に幅広いサービスを展開し、それまで以上のサービスの利用者に喜んでもらうことが出来たわけで、(非常に小規模ではありますが)非常に上手くいったM&Aだったのではないかと思います。こういうものに対しても正しい理解が広まらなくなると、それはそれで事業戦略上厳しい会社もあるのではないかと思います。
さらに、何よりも今回のことで懸念しているのは、これで日本のWeb系サービスが停滞することです。楽天やライブドアばかりがテレビでは取り沙汰されて、一般にはあまりわかっている人も少ないんじゃないかと思いますが、米国のネット企業は着実に技術・事業開発で力をつけて来ています。
今日本でメディアを騒がせることは無いけれども、着実に市場を広げているのはYahoo!Japanであり、Amazonであり、Googleな訳ですが、これらの企業は全てアメリカの企業です。私も昨年まで米資本の日本の子会社で働いていましたが、本社が技術や事業の開発に投資を積極的に行っている状況を見ていました。
巨大な資本と技術力、経験やノウハウを背景に、どんどんこうした企業が日本に参入してきたら、日本のネット企業なりサービスは、いつか(というか、既にでしょうが)実力の面で彼らに席巻されてしまうだろう、と一方で思っていたものです。実力でも彼らに匹敵する日本発の技術やサービスをまだまだ育てる必要があると私は思っています。
日本は資源の無い国だけに、常に何かを作り出して、海外の人に買って頂かないとやっていけない訳ですが、ハードウェアの製造でも周辺が脅かされている時に、その上に乗っかるソフトの市場でも負けることがあれば(これも既に敗色濃いわけですが)、この国の存続にも影響があるだろうと思っていますし、だからこそ何とかしなければいけないとも思っています。
話はまた変わりますが、そこかしこで言われているのがこれまでライブドアを「応援していた」と見られる人達の事件後の豹変振りです。これに関しては、私は別段怒る気もなく、むしろそういう人達の不明を寂しいと思うだけです。
メディアは畢竟、一般の人の情報に対するニーズを汲んで、それを幅広く出すに過ぎないと思っています。もちろんそこには編集者や記者の様々な努力や思い入れのようなものが入っていますが、視聴率で収益が決まってしまうとなれば、肯定的にせよ、批判的にせよ、最後は常識の範囲で出さざるを得ない情報は出すしかないと私は思っています。極言すると、メディアの出す情報というのは、日本の知的レベルを反映しているに過ぎないと私は思っています。
昔はマスメディアしかありませんでしたが、今は様々な専門家がブログで知見を披瀝してくれている時代です(それもタダで)。結局、メディア云々ではなく、最後は様々な情報を自分で学習し、判断するしかない、ということなのだと思います(投資をしている人であればよりそうあるべきでしょう)。
インターネットの時代がそれでもマシになったのは、今までは勝手に自分は正しいと言っているマスメディアの情報からしか自分の生き方を判断せざるを得なかった状況から、それまでは「それは違うよ」と言いたくても言えるチャネルが無かった専門家が、場合によっては無償で情報を提供してくれて、それまでの通念とは違うものをコスト安に勉強できるようになったということだと。そういう意味では、より「自分」というものが問われる時代になったのではないかと。
(自戒の念も込めてですが)情報を発信する人はもっと勉強すべきなのではないかと思いますし、短絡的になるべきではないと思っています。さっきナベツネさんがTBSのニュースに出ていて、「だから市場原理主義者はダメだ」的な発言をしていましたが、かつての過剰な産業保護政策が10年以上も前に破綻したことはどこぞへ行ってしまったのでしょうか?特にこういう微妙な時期にメディアに出られる方には、単純な批判だけではなく、「ではどうするべきか?」という提言をしっかりとしていってもらいたいと思います。
僕も生粋の市場原理主義者ではないですし、行き過ぎに批判的な方ではありますが、国内で規制の中でぬくぬくとやっていられるメディアにはわからない競争が一歩日本の外に出ればあるわけで、そこでは市場原理を重視したルールが敷かれていて、それに参加しないことには日本はやっていけない国な訳です(特に富を蓄積した今では。もちろん富を食いつぶしていくことを前提に、江戸時代に戻る覚悟があればそれでもいいかもしれませんが)。大事なのは保護政策なのではなく、日本人1人1人が経済や経営、事業に明るくなることだと思っていますし、それがこの国の底上げに繋がることだと私は思っています。後は企業ではなく、人の倫理観の問題だと。
私のブログを読まれている方は既にご存知だと思いますが、そういうところをいつも勉強させてもらっているブログを紹介して、このエントリーを閉じたいと。
isologue – by 磯崎哲也事務所
http://www.tez.com/blog/
板倉雄一郎事務所
http://www.yuichiro-itakura.com/
あと、自身がインタビューしたものですみませんが、ZDNet Japanに掲載中のeMercuryの笠原さんのインタビューが面白いので、是非よろしければ読んでみて下さい。
(一週間分のエントリーという感じの長文になってしまいましたが、ご容赦を。)


「メディアの出す情報というのは日本の知的レベルを反映しているに過ぎない」に激しく同意。
決して極言じゃないと思いますよ。
なんか持ち上げ方も手のひらの返し方も節操がないなぁと、個人的には思ってます。
1月 24th, 2006 at 20:07:21忙しくて、全然ニュースを追っていないのですが、一言。特に何も調べていないので、憶測です。
僕はライブドアというのは投資ファンドだったと思っています。そういう意味で応援もしていました。「旧体制」にがんがん食って掛る姿は格好よかった。比較すべきなのは村上ファンドであって、楽天ではないと思います。
僕は必ずしもリキッド・オーディオとライブドアを同一視する必要もないと思います。あれは本当にタダの詐欺でした。一方ライブドアは投資事業です。問題は古い体制に対して対峙するために、ある瞬間から汚い手を使わざるを得ない状況に陥ったことであろうと思います。非常に高いターンオーバーをもった投資ビジネスを前に進めるためには、更に新しい投資、更に大きな注目を浴びる、こういったプロセスが要求されたのではないでしょうか。そしてある一時点で汚い手口を使う以外に物事を前に進める手が無い、というところまで来たのでしょう。大きくなればなるほど色々なものが邪魔をしてくる。邪魔は取り除かなければならない。なぜなら資金の動きを一度でも止めると、生き残れない。そのような背景もあったのでは?と思います。
僕からすると彼は犯罪者であると同時に犠牲者です。かなり気色は違うかもしれませんが、僕が思い出すのはリキッドオーディオではなく、リクルート事件です。何故江副氏や堀江氏はあえて危ない橋を渡ったのか?
今、危惧するのは、問題の混同です。ネットが悪いわけではない。M&Aが悪いわけではない。市場原理が適応されることが悪いのではなく、市場原理が余りに働いていないから悪い、そんな気がします。
心情的には生き残ってほしいです。しかし、思うに、成長を余り急ぐべきではない、ということでしょう。己を知るのもビジネスマンにとって大事です。
1月 25th, 2006 at 2:37:34動画配信の未来もアップルとジョブズが切り開くらしい
ラウンドアップ:「魔法の王国」に乗り込む、S・ジョブズとピクサーの仲間たち – CNET Japanを読んで。 日本がライブドア騒動で、ちょっと後ろ向きな議論にはまりかけている間にアメ…
1月 26th, 2006 at 9:08:05>早川さん
コメントどもです。読む方のニーズがレベルの高いものになれば、当然メディアもレベルの高いものを出さざるを得ないわけで。
Blog時代にこそ、人が易きに流れないような仕組みづくりが結構重要だなぁと。
1月 27th, 2006 at 1:27:03>野村さん
コメントありがとうございます。ご指摘頂いた点もわからないでもないですが、ネット業界や市場の信頼を失墜させたという点では、動機はどうあれ厳しいようですが結果は同じだということです。ここは厳しく咎められるのはしょうがないと思っています。ただ一方で、裁く方にも正当性をもって、事実関係を明確にして、裁いてもらいたいと思っています(メディアはともすると事実を針小棒大に報じがちなので、この点にも注意してもらいたいところです)。
個人的には名著だと思っている「ビジョナリーカンパニー」にも冒頭に書かれていますが、経営というのは実は結構地味な仕事です。価値を提供しつつ持続可能なシステムを作ることが命題の仕事なのだと(これは私の尊敬するメンターが教えてくれたことですが)。
そういった価値観で見ると、野村さんが最後に仰っていたとおり、「成長をあまり急ぐべきではない」というところに帰結するのだと思います。様々な手法によって事業を着実に創出し、実態価値の創出に合わせて、投資を受けたり資源を増やしていくことが大事なのだと思います。
法人という単語がありますが、企業も人格を持つ以上、それに応じた倫理観が必要だと思っています。堀江さんはやっていたことを見ると面白いこともありますが、同世代の人間として
1月 27th, 2006 at 1:42:28(たぶん同じ年だと思うんですが)、この部分で決定的に共感できるものが無かったような気がします。